企業内SNS(Zyncro)活用事例「もったいない本舗」を考える

| 2012年9月13日 | 0 Comments

私は「企業内SNS(ソーシャル)」について、案外否定的な発言が多い。そのため誤解を招きがちなのだが、決してソーシャルメディアの企業内活用に否定的な訳ではない。むしろとても肯定的だ。だからこそ、昨今のパブリックソーシャル(TwitterやFacebook)ときちんと区別できていない、あるいは「ソーシャルを導入すればコミュニケーションが活性化しコラボレーションが促進されすべて上手く行く」ような安易な議論を危惧している。

寧ろ日本の組織はコミュニケーション過剰なのが問題。「◯◯さんは知っているのか」「××部長に了解もらったか」もっと部署/担当レベルの独立性を高めて、その代わり「自動的に」意思決定に必要な情報があつまるシステム(体制とIT)を構築すべきだ。

先日のこの Tweet も、そうした問題意識によるものだ。そもそも本当に日本企業は「コミュニケーション」は不足しているのだろうか?またそれを活性化すると本当に業務にプラス効果(だけ)があるのだろうか?普段あまり疑われることがないこれら前提について、あえて懐疑的な視点を提起してみた。

実のところ、この Tweet の背景には前回の「何故米国でSFAやCRMが発達したのか」があり、それに対するひとつの解として「企業内SNS」があり得ないだろうか?という想いが存在した。するとやはり、センスの良い方には見抜かれてしまうようで、オーシャンブリッジ社の高山社長から早速それに該当するのではないか、という事例を紹介頂いた。

企業内SNS(Zyncro)事例:もったいない本舗
http://www.zyncro.jp/voice04.html

オープンなコミュニケーションによる業務の「見える化」

この事例によると【もったいない本舗】では、社員間の連絡や報告、相談はすべて SNS(Zyncro)で行われているそうである。記事では、社内SNS(Zyncro)の「8つの価値」が挙げられている。

1)トップに「現場の情報」が全て集まる
2)ただちに「過去のログ」を入手できる
3)業務を「言動レベル」で振り返ることができる
4)スタッフへの指導やフォローが効率化する
5)スタッフの「伝える力」が上がる
6)スタッフ同士が学び合う
7)外注業者との協業がスムーズになる
8)全ての業務活動が社史として資産化する

詳細な内容はぜひ原文を読んで頂きたいが、こうして一覧でみても、とても「具体的」であることがわかる。「部門の壁」や「コミュニケーションの円滑化」といった抽象的な言葉は登場しない。どのように Zyncro が利用され、効果を発揮しているのか、容易にイメージすることができる。

この1〜8を大きくまとめると、業務の見える化による改善効果 であると言えるだろう。業務上のコミュニケーションを、個人に閉じたメールではなく、グループ単位でオープンな(かつ記録に残る)場で行うことにより、経営者は社員の動きを把握しやすくなり(1)、社員はお互いの業務が見える(見えてしまう)ことで気づきが生まれ、結果、業務品質が向上する(4、5、6)。また、業務ログが共有されることで個人の(または組織的な)振返りが容易になり、効果が上乗せされる(2、3、8)という図式だ。

一般的に、「業務の見える化」といえば、担当の明文化やフロー図の記述、業務時間の測定など、「静的」なアプローチがとられることが多い。しかし、この事例では、システムを利用することでコミュニケーションを可視化、記録し、それをむしろ「動的」な見える化を行っている点が特徴だ。

組織の規模と、業務特性による制約

ただし(何事もそうであるように)、この事例にそのまま倣えば、必ず同じ効果を挙げられる訳ではないだろう。私は、このアプローチには 1.組織規模2.業務特性 による制約があると思う。

組織規模という点では、【もったいない本舗】は従業員60人前後であるそうだ。これは、私の考える最適値イメージとも合致する。例えば、200人、500人、1000人の組織ではどうだろうか?関係者が増えれば、それだけ SNS を飛び交う情報量は加速度的に増す。個人の視点で考えれば、不要な情報は情報のノイズに他ならず、結果的に可視化効果(4、5、6)や振り返り効果(2、3、8)がスポイルされることは避けられないだろう。

経営者(1)にも同じことが言える。画面上でどれだけ整理されていようとも、ひとりの人間が把握できる情報にはおのずと限界がある。かといって、絞る訳にも行かない。「網羅的な把握」こそが、このアプローチの肝であるからだ。

また、可視化による効果は、業務(組織)の特性によっても大きく左右され得る。例えば、ルート営業セクションはどうだろうか。営業担当はそれぞれ別の地域、異なる顧客相手に活動していたとしても、業務そのものの均一性は高い。そのため、相互のコミュニケーションから気づきを得たり、相互理解を進展させることは難しくないだろう。

しかし、例えばシステム管理部門ではやや事情が異なる。Webアプリケーション開発担当と、インフラ基盤担当では、お互いの業務領域があまりに違う。コミュニケーションが開示されても、その大半はお互いにとりノイズでしかない。これでは、大きな効果は期待できない。

このような点を勘案すると、まさに【もったいない本舗】がそうであるように、40〜80人の組織がこのアプローチにおける最適値なのではないだろうか。もちろん、それ以上の組織でも、適正な範囲でコミュニケーションを区切るなど工夫することで、同じ効果を狙うことは十分できるだろう。その意味では、大組織では全社一律の導入よりも、部署単位に切り分けた取り組みが望ましい、と言えるかもしれない。

ソーシャルとはなんなのか?より根本的な疑問は残る

この【もったいない本舗】は Zyncro というパブリック・クラウドサービスを利用した、素晴らしい業務改善事例だ。しかし、素朴な疑問は残る。これは「ソーシャル」なのだろうか?

もちろん「Zyncro」は SNS サービスである。しかし、こうしてその要素を紐解いてゆくと、あまり「ソーシャルらしく」はないようにも思えてくる。ここには「シェア」も「いいね」も「フォロー」もない。同じようなシステムは、例えば SharePoint のようなグループウェアの掲示板・フォーラム機能でも実現できるだろう。もちろん SNS として洗練された Zyncro の機能や UI(ユーザインタフェース)の存在は無視できないが、それはまた別の話だ。

つまるところ、これは「企業内ソーシャルネットワーキングサービス(システム)とは何か?」というテーマの根幹に関わる問題だ。例えば「Twitter や Facebook で一般化された短いタイムスパンでの発言を促すUIと仕組と限定範囲(グループ)でのオープンなコミュニケーション形態」と技術面から定義するなら、この【もったいない本舗】は素晴らしく「ソーシャル」だと言える。他方、「共感をベースにした人と人との緩やかな連帯による相互理解や相互協力の深化」のように、よりメタ的に捉えるなら、この事例をソーシャルと呼ぶべきではないだろう。

これは定義の問題であり、私自身もまだ明確な結論を持たない。個人的には、後者こそ「ソーシャル」である、という印象を持ってはいるのだが、実のところ、企業業務においては「業績にプラス効果がある」ことこそが重要であり、それがソーシャルかどうか、など瑣末な問題だ。その意味において、ぜひ、この事例をより多くの企業が(良い意味で)模倣し、その効果が広範囲で実証されることを期待している。

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