楽天の電子書籍端末「kobo(コボ)」を購入した感想 その他

| 2012年7月28日 | 0 Comments

先日、楽天から電子書籍端末「kobo(コボ)」が発売された。国内では初めの一万円を切る電子書籍端末であり、以前から「電子書籍の普及には安価な端末が必要不可欠」と嘆いてきた私としては、いわゆる「人柱」を覚悟してでも買うべきだ、と勝手な使命感から(?)当日に購入した。その感想などを以下にまとめてみる。もちろん、すべて私の個人的感想、ということをご容赦頂きたい。なお、私は Amazon の Kindle Touch ユーザでもあるため、それとの比較が中心になっている。

e-ink式端末としては及第点

端末価格(7,980円)と、初期リリースであることを勘案すると、kobo は悪くない。むしろ良い。画面解像度(横600px 縦800px)や筐体サイズ(6インチ)、物理ボタンはホームと電源のみ、といった基本仕様は Kindle Touch と同一だが、画面の描画速度は kobo が速い。これは特に PDF ファイルの閲覧時に顕著だ。

外付けミニ SD カードに対応している点も大きい。Kindle Touch にも 4 GB(実質 3 GB)の内部メモリがあり、Amazon から購入した電子書籍を読むだけであれば十分だったが、PDF で仕事資料や自炊した漫画などを保存しておくには手狭感が拭えなかった。SDカードであればその心配はほぼ無いし、ファイルの転送にも利用できる。省スペース性は電子書籍端末の意義であり「数千冊がすべてこの端末に」という安心感(と満足感)は大きい。

また、解像度こそ同一だが、Kindle Touch の弱点だった「PDFに外枠(スペース)が自動設定されてしまい画面をフルに使えない」問題が kobo にはない。そのため Word から保存した A4 サイズの PDF ドキュメントも、それなりに実用的なサイズで読める。ただしフォントが極小になる点は変わらないので、まだ「読みやすい」とは言えない。拡大/縮小機能が Kindle Touch よりも実用的な点も評価できる。

熟れていないソフトトウェア・デザイン

物理的には、端末を持った感触は悪くないしチープ感もない。強いて言えば女性物ポーチのような背面に、ビジネスマンが少々抵抗を感じるだろうか、という程度だ。

しかし、ソフトウェア的には、控えめに言ってもアラが目立つ。機能面でも、UX(ユーザ体験)的にも、Kobo は Kindle Touch と比較して使い易いとは言い難い。

例えば、トップ画面に最近読んだ五冊を表示する、というのは面白い発想だが、そのために蔵書一覧を開くには[ライブラリ]→[本]と二回タップが必要になる。そもそも「本」と「本棚」の違いはなんだろうか?一覧画面ではスワイプ操作ができないので、ページ送りは画面下の小さな矢印アイコンでしかできない。e-ink のタッチ精度の悪さや、動作速度の遅さもあり、快適とは言えない。

また、アイコンが画面の縁ごく近くに配置されている点も問題で、筺体のヘリが邪魔でタッチしづらい。画面左上の設定ボタンが最悪だ。

ただ、こうしたソフトウェア的な弱点は、今後のアップデートで改善できるし、またされることを期待している。

読書端末としての環境不足が課題か

これは kobo と言うよりも e-ink 型の電子書籍端末全般の問題だが、 「電池がもつ」「軽い」「目にやさしい」と言った e-ink のメリットを勘案しても、総合的な読書の快適さを考えると、現時点ではまだ iPad のようなタブレット端末が勝る、というのが私の印象だ。

最大の問題はやはりレスポンスの悪さ。普通に頁をめくって読むには不都合はないものの、連続してめくる、沢山の蔵書から検索する、辞書で調べる、拡大縮小する、そして目次だけでは判らないのでざっと目を通す、など、それ以外の「読書に関連した体験」に不満を感じる。

もちろん、数千円の廉価端末と iPad を比較することは技術的にフェアでない。しかし「読書体験」という点で、kobo にはまだ電子書籍ならではの魅力に乏しいことは事実だ。ストアに登録された書籍点数も少なく(更にその大半が無料の青空文庫だ)、価格も紙媒体と変わらない。正直、これでなら私は紙媒体で買うことを選ぶし、実際、まだ一冊も kobo で購入していない。

なお、Kindle Touch はこの点についてそれなりに充実している。Amazon の膨大な蔵書があり、かつ電子書籍版は紙媒体よりも大幅に安価に設定されている。一度購入した書籍は iPad でも iPhone でもパソコンでも読める。読みかけのページまできちんと同期されるのは驚きだ。こうした点はやはり Amazon と Kindle に一日の長があり、楽天と kobo も、如何にこうした「電子書籍ならではの読書環境」を早期に構築できるかが、課題といえるだろう。

リリース時の「炎上」と kobo のマーケテイング

余談になるが、kobo の初期リリース時にはアクティベーションができないなど種々トラブルがあり、楽天に苦情が殺到した。楽天の対応にも問題があり(低評価が集中したレビューを非表示にするなど)、その他細々した障害、ミス、準備不足、手違いと相まって、結果として「大炎上」の様相を呈した。

そして昨日、社長である三木谷氏の発言が掲載され、これがまた物議を醸している。(いわゆる「燃料投下」)

私自身としては、昨今のIT系のガジェットの初期リリースにおけるこの程度の障害は常態化しており、決して、褒められた話ではないものの、とりたてて kobo に問題があったという印象は薄い。混乱も一時的なものだろう。今回は、日本国内での「楽天」というチャネルの強さがあり、そうした「ITの常識」が通じないユーザー層が多かったため問題が顕在化した、ということだろうか。

だが、低評価レビューを消してしまうという「特別対応」は流石に同意しかねる。更に三木谷氏の「文句を言っている数千人はごく一部にすぎない」という発言は、実際にこの障害で四苦八苦した顧客を馬鹿にしているとしか思えず、少なからず不愉快だ。

もっとも、マーケテイングという観点では、kobo がここから今後どのように展開されるのか?についてはとても関心がある。一般的に、少数顧客の不満にも真摯に耳を傾け配慮すべき、がマーケテイングの金枝玉葉であり、特にそれが初期リリースを購入してくれるようなコアなファン層である場合にはなおさらだ。私自身も長年そう教えられてきたし、実際、Web や SNS 上では、今回の楽天側の対応と、三木谷氏の発言にはおしなべて悪評が目立ち、いわゆるクチコミマーケテイング(最近ならソーシャル・マーケテイング)としては最悪の状態だ。

しかし、はたしてこの悪評は kobo の売上に影響するだろうか?楽天がの想定する kobo のターゲット層と、Web や SNS のユーザ層に隔たりがあるとすれば「全く問題ない。躓きですすらない。すべて順調」という三木谷氏のトップ発言は、それが詭弁であれマーケティング的な「正解」なのかもしれない。その文脈で考えれば、批判を承知でレビューを操作したことも理解できる。ターゲット層が唯一見て、購入の決断に影響するのが楽天のレビュー欄だからだ。

現段階ではポテンシャルを評価

炎上の件はさておき、製品の初期リリースとしては kobo は「まずまず」だろう。なにより、一万円以下で実用的な電子書籍リーダーを出した、という意義を高く評価したい。実際の利用面では前述のような不満も少なくないが、その多くは解消可能であり、遠からず改善されると期待している。

とはいえ、最大のライバルである Kindle も9月には日本で発売されるという話もある(米アマゾン 9月にも電子書籍配信開始 日本向け )。また Apple から7インチの iPad が発売される、という噂もあり、楽天に残された時間は決して潤沢とは言えないかもしれない。

さて、最後に半ば無理矢理この「感想」をまとめると、kobo は決して高額な端末ではないため、「電子書籍」に興味のある方は、将来的な期待値込みで購入してもそれほど損はないだろう。kobo は公式には明記されていないが cbz 形式にも対応するため、自炊派であれば 600*800 の解像度にリサイズした漫画(jpeg)を zip に圧縮し、SDカードに保存しておくだけで、手軽な漫画ビューワとして重宝する。(実は PDF よりも cbz の方が明らかにレスポンスが良い)

だが、自炊にあまり縁のない一般ユーザなら、Kindle や 小型 iPad の動向、それに楽天のサービス改善の方向性がある程度見えてくる、今年年末まで待つのがより「手堅い」選択肢かもしれない。

楽天の電子書籍リーダー「Kobo glo」レビュー

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