「世界が残酷なのは当たり前のことです」
漫画「銃夢 Last Order」から、マッド・サイエンティストのノヴァ教授の言葉。天才的知性を持ちながらも世界に絶望して死を望んだ助手、ロスコーに投げかけた台詞(この時点でロスコーは既に自殺しているので、その人格バックアップ情報で動くロボットに対して)。
私は無宗教なせいか(家には仏壇と神棚があり、結婚式は教会で葬儀は仏式、という典型的な日本的無宗教である)、この「世界」と「人間の生死」の解釈がいたく腑に落ちた。
ロスコー君、宿命というものは確かにある。
人は場所・時代・環境を選んで生まれることはできない。
ゆえに生まれた瞬間にそれぞれの人間の生きる条件は異なっている。
これが宿命です。
そして世界が残酷なのは当たり前のことです。
生の始まりは化学反応にすぎず。
魂は存在せず、精神は神経細胞の火花にすぎず。
人間存在は記憶情報の影にすぎず。
神のいない無慈悲な世界でたった一人で生きなければならぬとしても…
なお…なお我は意思の名において命じる。「生きよ」と!!
君はまだ若い。
世界のカルマの負荷に膝を屈するのもやむを得ぬかもしれない。
悪を目指すも良し!善を目指すも良し!
道を探るのもいいでしょう…
しかし、生きていなければ。
生きていなければどんな才能でも実を結ぶことは決してないのですよ!
作中では「狂人」として描かれ、散々な扱いのノヴァ教授だが、その思想には一切のブレがない。実は作者自身の世界観、人間観がもっとも色濃く反映したキャラクターなのかもしれない。「人間存在は記憶情報の影」であり「神のいない無慈悲な世界」と言い切る冷徹な認識の行き着く先が、むしろ宗教的とも言える「生きろ!」であることは、なかなか興味深いところではある。
なお、ノヴァ教授の好物はプリンである。