僕のプロフィールなんて上司も人事も気にしてない。日本企業内でいわゆる格好いいソーシャルが広まらないひとつの傍証

| 2013年6月5日

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日本では「知っている人と働く」。上司は部下を掌握し、阿吽の呼吸でリードすることが求められる。一方、米国では「知らない人と働く」。部下は独立したプロフェッショナル。ボスの役割はそのスキルを把握し、適切に組み合わせて仕事を進めること。

情報システム、というものは大抵(残念なことに)欧米、とりわけ米国発だ。その為、日本組織にそのまま導入しても上手く行かないことが多い。それは、システムがどこまでも「人」の使う道具であることに起因している。「人」とその集団である「組織」の文化的背景が大きく異なるため、システム設計上の想定と齟齬をきたすのだ。

この傾向は特に、私の専門であるコミュニケーション/コラボレーション/ナレッジ共有/グループウェアといった領域で色濃い。とあるソリューション販売企業の担当者と話した際、彼は「日本と欧米では製品/サービスの売れ筋が全く異なるのでプロモーションに苦慮している」と嘆いていた。

最近の流行である「エンタープライズ(企業内)ソーシャル」についても、私はそうした傾向を強く感じている。

ソーシャルメディアの急速な普及をうけ、多くの「企業向け」を製品が登場した。その多くは「個を中心とした従来とは異なる情報ネットワークでコラボレーションを活性化」「個対個の交流で新しいアイデアが生まれる」「あなたをだれかが助けてくれる」などを標榜する。なるほど、これらは Faceboook や Twitter 上で生まれた成功事例そのものであり、米国では実際に企業内でもこうしたモデルが成立している、と聞く。

しかし。これが、日本企業にそのまま適応できるのだろうか?

もちろんケースバイケースであることは前提だが、一般的な「日本的な組織」、とりわけ大企業組織の特性を考えると、私は難しいだろう、と考えている。上記の通り、個人/組織の文化的テクスチャが全く異なるからだ。(この辺りの話は、先日の SharePoint ユーザーカンファレンスで講演させ頂いたので、どこかでエントリとしてまとめたいと思う)

ここで冒頭に戻る。これは、先日、あるグローバルに活躍されている IT 関係者に伺った日米対比だ。「知っている人と働く」日本、「知らない人と働く」米国。あくまで、この方個人の見解だが、非常に示唆にとんでいる。

日本では「知っている人と働く」。上司は部下を掌握し、阿吽の呼吸でリードすることが求められる。一方、米国では「知らない人と働く」。部下は独立したプロフェッショナル。ボスの役割はそのスキルを把握し、適切に組み合わせて仕事を進めること。

これを上司(ボス)の役割、という点で考えると次のようになるだろう。

・日本上司は、与えられたチームを育成し、鼓舞し、内外を調整し、目標を達成する。
・米国のボスは、社員の個人ポータル(社内システム)を参照し、社員の過去の成果やスキルを確認し、自分のプロジェクトに適切な人材をアサインする。

従って、米国の一般社員にとり、自身のプロフィールはより良い(評価されキャリアに繋がる)仕事を得る(プロジェクトにアサインされる)ために重要なアピールの場なのだ。これをきちんと書かないと、最悪、社内失業してしまう。

また、この文脈で考えれば「企業内ソーシャル」の価値も明らかだ。つぶやき、シェア、Wiki、Blog など、とにかく社内メディア上で「価値ある情報の発信源」であることが、同じ理由で重要になる。そこには、ソーシャルに貢献する(時間を使う)とても利己的な必然がある訳だ。

一方、日本においてはどうだろうか。一般社員にとり、仕事は上司から命ぜられるものであり、それを如何に効率よくこなし、上司の心証を良くするか、がキャリアに繋がる。この構造下では、社内メディアにどれだけ貢献しようとも時間の無駄だし、悪くすれば「お前は暇なのか」と評価を下げられかねない。実際、そうした話もしばしば聞く。

誤解して頂きたくないのだが、私は「だから日本組織の業務スタイルは米国に劣る」などと指摘したい訳では無い。両者には本質的な違いがあり、それが「企業内ソーシャル」の用いられ方、ユーザーの動機づけにも反映される、という指摘に過ぎない。

なるほど、社内ソーシャルの必要性が日本とアメリカとでは違うんだなぁ 黙ってても仕事が降ってくる会社では社内ソーシャルはただの雑談の場所になるのか面白いなぁ #jpsps

この方の感想も実に言い得て妙だ。

日本における企業内ソーシャルを「ただの雑談の場」に終わらせない為にはどうしたらよいのだろうか?この点については、今後も考察を深めたいが、ひとつ確実に言えることは、米国発の製品を導入して、そのまま使うだけでは駄目だ、ということだろう。

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