ソーシャル/エンタープライズ・ソーシャルとは。その定義を考える。

| 2012年9月20日 | 0 Comments

「企業内業務におけるソーシャルの活用」は私が強い関心を寄せている分野である。しかし、いざ書きはじめると、どうにも上手くまとまらないことが多い。これは何故かと自問してみると、やはり「ソーシャル」というキーワードをきちんと定義できていないことが、一番の原因であるようだ。

「ソーシャル」とは何を指すのか?「エンタープライズ・ソーシャル」とは?

これほど「ソーシャル」が話題であるにも関わらず、実は私自身、その辺りのきちんとした定義を見かけた覚えがない。

いくらでも拡大解釈できる「ソーシャル」

一般的な認識としては、 Facebook と Twitter は「ソーシャル」であり、それに類似したサービスも「ソーシャル」。そして、それを社内システム化したものが「エンタープライズ・ソーシャル」といったところだろう。

もちろん、この定義では曖昧すぎる。Facebook や Twitter に少し似ていればおしなべて「ソーシャル」と一括りに語れてしまう。

例えば、グループウェアの書庫に「いいね」や「フォロー」があれば、それでソーシャルなのだろうか?掲示板の入力が140文字制限でスマートフォンや iPad からアクセスできればソーシャルと呼ぶべきだろうか?

実際、このところ Blog や Wiki、それにクラウドサービス全般までを「ソーシャル」と呼ぶ議論も散見され、私もさすがにこれは行き過ぎではないか、と感じている(「Web 2.0」はどこに行ったのだろう?)。

アプローチとしてのソーシャル

そもそも、代表的「ソーシャル」である Facebook と Twitter だけを見ても、双方のシステムとしての性質は全く異なる。にも関わらず、私たちはそれを「ソーシャル」と括ることにあまり抵抗を感じないのは何故か。

Facebook や Twitter に共通するシステム(機能)以外の要素とはなんだろうか。意見の分かれるテーマだが、私はそれを 1.オープン性とクローズド性が共存する空間 と 2.そこに形成される共感に裏打ちされた緩やかなコミュニティの二点であると考えている。

Webのサービスであり、誰でも参加できる。どこからでもアクセスできる。世界中に膨大なユーザーがいて、自分の言葉が簡単に全世界にむかって公開され、面識のない相手からもリアクションがある。その一方で、特定の相手やグループとだけコミュニケーションを深めることもできる。

この「オープン性とクローズド性の同居」は、従来のWebページやブログ(オープン)、フォーラム(クローズド)にはなかった特質だ。

そして、そのオープン/クローズドな空間におけるコミュニケーションでは、「共感によるつながり」が中軸となることが既に多く方に指摘されている。

フォロー/フレンド/いいね/リツイート/フェーバリット などの機能を介して、共感を共有するユーザー同士があつまり、オープンな場の中にゆるやかなコミュニティーを形成する。共感をベースとするため、親近感や信頼感が生まれ易くコミュニケーションは活性化するが、その一方で連帯としては弱く、共感度が下がれば容易に離散する特性がある。

ここでポイントになるのは、Facebook にせよ Twitter にせよ「ソーシャル」として重要なのはひとつひとつの機能ではない、ということだ。つまり私たちが「ソーシャル」と呼ぶものの本質は、システムではなく、サービスの用いられ方(アプローチ)であり、ひいてはサービスが社会に与える影響なのである。

システムとしてのソーシャル

意外なことに、個別機能だけを見るのなら Facebook や Twitter は旧来のシステムと大きな違いがなく、あまり新しい仕組みとは言えない。しかし、それでもなお、 Facebook や Twitter は革新性を感じさせるサービスだ。

それは、個別機能に目新しさはなくとも、それらを組合わせ・取捨選択して生まれた総体はまったく新しいサービスであるからだ。例えるなら、携帯電話における iPhone の位置づけに近いかもしれない。

その意味において、こうした Facebook や Twitter の「総体としての機能」を取り込んだシステムを、前述の「アプローチとしてのソーシャル」とはまた違る意味で「ソーシャル」と呼ぶことは、決して不自然ではないだろう。
 
システムとしてのソーシャルに特徴的な機能として、例えば以下が挙げられる。

・公開範囲を指定した発信する機能
・写真や動画を共有する機能
・Webサイト(WWW)の情報を簡単に共有する機能
・いいねなどシンプルな賛意を表明する手段
・タイムライン
・フォロー/アンフォロー/ブロック
・あたらしいユーザのレコメンデーション
・ダイレクトメッセージング
・プレゼンスとチャット
・どこからでもアクセスできる。マルチデバイス。(ユビキタス)

「システムとしてのソーシャル」は、単体ではあくまでいち機能に過ぎないことに留意が必要だ。たとえば「フォロー/アンフォロー/ブロック」はソーシャルを象徴する機能ではある。しかし、それが実際にどのような効果を生むかは、その用いられ方(アプローチ)次第なのだ。

「ソーシャル」という言葉を用いる際には、それは目的(アプローチ)なのか、手段(システム)なのかを明確にすることが、議論を深めるために重要になる。

エンタープライズ・ソーシャルと四つの領域

Facebook や Twitter の隆盛を見れば、それをビジネスで活用できないだろうか?と考えるのはしごく当然だ。こうしたテーマは総じて「エンタープライズ・ソーシャル」などと呼ばれるが、やはり「ソーシャル」が整理されずに用いられることが多く、混迷した印象をうける。

エンタープライズ・ソーシャルと呼ばれる領域は、大きく二つに整理することができる。1. Facebook や Twitter(パブリック・ソーシャル)を企業の広告宣伝活動にどう利用するか、2. Facebook や Twitter のようなシステムを業務基盤として活用できないか、という二点だ。

前者は「マーケティングとしてのソーシャル」、後者は「ワークスタイルとしてのソーシャル」と呼ぶことができる。

マーケティングとしてのソーシャルは、Facebook や Twitter を新しいメディアとして捉えその伝播力に期待するものだ。広告出稿やキャンペーンによる直接的なセールスを狙う、あるいは顧客との関係構築による中長期的なイメージアップを目的とする、という二通りのアプローチがあるが、基本的には従来のWebマーケティングの延長線上であり、すでに実践的な試行錯誤がおこなわれている。

一方、ワークスタイルとしてのソーシャルは、社内システムとして導入しよう、というもの。こちらはまだ黎明期と言うべき段階で、その効果についても定かではないのだが、その方向性から、社内コミュニケーション基盤として利用する、あるいは企業間(B2B)のコラボレーション基盤としての活用、に大別することができる。

当然ながら、この四つの領域はそれぞれが異なる特質をもつ。具体的な活用手段、施策を検討するにあたり、それを把握し、最適な手法を選択する事が重要だ。

社内コミュニケーション基盤としてのソーシャルとその二面性

さて、黎明期であるところの「ワークスタイルとしてのソーシャル」のうち、内向きの方向性、つまり社内コミュニケーション基盤としてのソーシャルについて、その期待効果として多く挙げられるのが「eメールの代替(No Email)」「コミュニケーション活性化」「部門の壁を打破」などのキーワードだ。

No Email は、eメールの構造的な非効率を、ソーシャルが備える機能で克服しようとする試みだ。確かに、Facebook や Twitter はメールよりも即応性が高く、またオープンである一方、チャットのような完全リアルタイムではないため非同期の利点も備えている。迅速な決断と実行が求められる昨今のビジネス環境に、より適したメッセージング基盤である、と言えるのかもしれない。

また、同じ理由で社員間連絡のスピード感が高まることから、確かに「コミュニケーションが活性化」するだろう。

ただ、一般的にソーシャルによる「コミュニケーション活性化」がアピールされる場合、そこにはそれ以上の意味が含まれていることが多い。スピードが増すだけではなく、社員間で Facebook や Twitter のような、組織の枠を越えた(職制ではななく共感に依拠した)ネットワークが形成され、従来なかったコラボレーション効果が生まれる、即ち「部門の壁が打破」される、というものだ。

このように「eメール代替(No Email)」「コミュニケーション活性化」「部門の壁を打破」という主たるキーワードを比較すると、前出の「システムとしてのソーシャル」「アプローチとしてのソーシャル」が混在していることが判るだろう。つまりパブリック・ソーシャルを巡る議論(の混乱)の縮小版なのだ。

No Email はソーシャルの機能に着目したもので「システムとしての〜」に属する。一方、部門の壁を打破、はソーシャルの連帯効果に主眼をすえており「アプローチとしての〜」の色が濃い。コミュニケーション活性化は両方の側面をもち得るが、ユーザーがそのどちらを重視しているかによる。

なお、付け加えるなら、以前のエントリ紹介した「Zyncro」の事例(もったいない本舗)も、この「システムとしてのソーシャル」要素が濃いと言えるだろう。

まとめ

以上、昨今の「エンタープライズ・ソーシャル」を巡る議論を俯瞰し、私なりの定義づけを行ってみた。これをまとめると以下のような図式になる。

重要なのは「ソーシャル」を検討するにあたり、それがどの領域の話なのか、きちんと突き詰めることだ。特に社内システムとしてソーシャルを検討する場合、「システムとしてのソーシャル」「アプローチとしてのソーシャル」が峻別されていないと、なんとなくソーシャルを導入すればいろいろ上手く行く、という議論(雰囲気)に陥り易い。

およそあらゆるシステムがそうであるように、「自社ビジネスに寄与するソーシャルとは?」「具体的にどのような機能が何故その効果をもたらすのか」について、徹底的な検討が必要だ。

もしあながた明日、上司に「ソーシャルを検討しろ」と言われたら。ぜひ「どの領域のことですか?」と聞き返して欲しい。業者(または私のようなコンサルタントから…私はしないが)から「社長!これからはソーシャルです!」と提案されたなら、その内容を上のダイアグラムで分解してみて欲しい。

もちろん、この定義は私の現時点における理解によるものに過ぎず、完全ではない。むしろぜひ皆さんのご意見を頂き、ブラッシュアップをかけてゆきたいと考えている。

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