ビジネスにおける四つの「ソーシャル」領域を混同するべきではない
私はTwitterとFaecebookの(ビジネス面での)ヘビーユーザーで、その可能性に期待しているひとりだ。だが、その一方で「ビジネスにおけるソーシャル・メディア」を巡る議論には、ややネガティヴな印象をもっている。
ソーシャルは新しい、なにやら凄い、既存システムなど時代遅れだ、これですべてが上手く行く。そんな浅薄なイメージが先行しており、実のある議論になっていない。もちろん、素晴らしい見識も多々(都度、学ばせて頂いている)あるのだが、どうしても、そうではないメッセージ量が圧倒的であり、ともすれば埋没しがちだ。
何故そうなるのか。私なりに考えてみると、やはり、パブリックにおける Facebook や Twitter の成功があまりにも鮮烈すぎたのだろう。Facebook(Twiter)=ソーシャル、という安易な図式が定着してしまい、「ソーシャルメディアとは何か」という本質的な定義づけがきちんと成されていないことが、混乱の一因であると思う。
例えば、私の主要な関心である「ビジネスにおけるソーシャル活用」であれば、その位置づけは大きく四つの領域に別けられる筈だ。
1. 短期的マーケティングとしてのソーシャル
とにかく露出を増やす、というシンプルなマーケティングにソーシャルメディアを活用する。ソーシャルメディアは、高PVでかつユーザあたりの滞在時間が長いだけでなく、個人の属性情報を利用すれば、広告宣伝の的確なターゲティングができる。また、繋がりがある個人が推奨(いいね、リツイート)した商品やサービスは、より高い関心を持って貰ういやすい(かもしれない)。
ただし、この領域は既存のWeb媒体との比較において、それほど特別な効果を見込める訳ではないことが、徐々に明らかになっている。膨大な「いいね」を得た企業 Facebook ページも数多いが、その再訪率はかなり低く僅か 0.4 %というレポートもある。私自身の実感としてもそのあたりだろう。勿論、広告のセグメント化についてはこれから大いに発展の余地があり、その意味で将来的な期待値は高い。
2.ソーシャルによる顧客との接点強化
直接的な販促活動ではなく、主に製品やサービスの顧客応対、あるいは広報にソーシャルメディアを活用する。企業またはブランドに対する顧客の信頼や共感を積み上げ、ロイヤリティを向上させる事で、中長期スパンで売上に貢献することを主たる目的とする。
個人的には(1)でなくこの(2)こそが「ソーシャル・マーケティング」の本筋だと考えているのだが、正直なところ、これは組織が大きくなればなるほど難しい。
ソーシャルはあくまで「個人」のメディアであり、漫然と企業の公式リリースを発信してもなんら共感は得られない。企業アカウントであれ、発信者である個人の意思を感じることができ、かつそれが実際の企業姿勢と乖離ことが重要なのだが…大組織のいち担当にはとても無理な相談だ。だから、Twitter における孫氏のような組織トップによる発信が、この領域におけるベストプラクティスになる。
3.企業内における社員の「ソーシャル」化
いわゆる「エンタープライズ・ソーシャル」と呼ばれる領域だが、まだ未成熟な分野であり、そのため最も議論が混迷している印象がある。様々な製品が雨後の筍のごとく登場し、これからも増える勢いだ。
それ自体は決して悪いことではないのだが、問題は「企業内ソーシャルシステム」とは具体的にどのような位置づけのシステムであり、それがどのようにユーザー業務に影響し、そして経営に資するのか?という最も重要な筈のポイントについて、いずれの製品もバラバラであり、かつ(なお悪い事に)大概において曖昧である、という点だ。
「情報共有の深化」「コミュニケーション強化」「コラボレーション促進」といったフレーズが掲げられることが多い。だが、これらはグループウェアなど情報系システム全般における「毎度のお約束」であり、正直なところ、信憑性も具体性も乏しいと言わざるを得ない。少なくとも「ソーシャル」で何が実現され、そして何故既存システムでは駄目なのか?この点について、きちんとした(上のような言葉で誤摩化さない)説明が必要だ。
4.B2Bの「ソーシャル」化
特定の研究/開発プロジェクトや分科会など、企業間におけるコミュニケーションを Facebook のようなシステムで行う。(3)「エンタープライズ・ソーシャル」の一部として扱われることが多いが、社内と社外では、システムの位置づけや目指す効果が異なるように思えるため、あえて別けた。
以上、長くなってしまったが、まとめるとこのような図式になる。
ビジネスシーンにおける「ソーシャル活用」を検討するのであれば、最低限、この四つの領域のどれに該当するのかを明確にし、それぞれを峻別した上で議論を深めるべきだ。
まあ、ひとつ確実に言えるとすれば…「いいねとフォローがあればソーシャル、ではない」ということだろうか。この点は声を大にして言っておきたい。