「NO email 論」に感じる違和感(ソーシャル・エンタープライズ・カンファレンス感想から)

| 2012年7月21日 | 0 Comments

先日、「ソーシャル・エンタープライズ・カンファレンス2012」に(いち聴衆として)参加した。当日の会場はセッションあたり数百人という大盛況(来場者数1844人ー主催者調べ)で、このテーマへの関心の高さを伺わせた。もっとも、同会場で開催されていた「スマートフォン・カンファレンス(うろ覚え)は更に圧倒的な人出だったが。

本カンファレンスの銘は「ビジネスの生産を革新する新たな流れ 社内ソーシャルネットワークの活用術を徹底解説する専門セミナー」だが、その実態はどうだっただろうか?ひとことで言うなら、「玉石混合」という感じか。どのセッションが玉で、どれが石だ、などと失礼を言うつもりは毛頭ないが(午後のセッションは選択制だった為すべての講演を聞けた訳でもない)、以前言及したような、この領域の混迷具合が如実に反映されていた印象だ。

全体を通じてみると、日米でこの「企業ソーシャル」というテーマの捉え方に大きな隔たりがあったことは、新鮮な発見だった。「メールを代替し得る効率的なコミュニケーションの仕組み」として議論するのが、日本人講演者の基本的なスタンスだが、一方、米IBM の Douglas Heintzman 氏や CITRIX の Kineon Walker 氏は、いずれもこれを「新しい企業スタイル」として捉え、 ブログやWiki、リモート会議やユニファイドコミュニケーション、そしてクラウド基盤まで含んだ、大きなエコシステムの変革として論じていた。講演毎に議論の方向性というか、問題設定のレベルがすさまじく上下したため、ちょっとしたジェットコースター気分ではあった。

さて、そうした背景もあり、実は今回のカンファレンスで私自身が最も強く感じたのは「eメールは非効率だ(これからはSNSだ)」という主張に対する違和感だった。以前より疑わしく感じていたが、それをより濃厚に意識した。

企業 SNS システムを導入しよう、という方の多くが「eメールが非効率極まりないから、SNS を導入してこれを代替すべき」と主張する。確かに、私自身も毎日届く大量の eメール(スパムを含む)にはうんざりしており、その点である程度は共感できる。しかし、本当に SNS で eメールを代替すれば全てが解決するのだろうか?そもそも、eメールの何が悪く、SNS でそれがどのように改善されるのだろうか?

こうした点について改めて聞いてみると、その説明は案外弱い。以下に私がよく聞く内容をいくつか挙げて見る。

「SNSならタイトルと挨拶を書かなくて良いので効率的」
全く本質的ではない。そもそもどんなに多くても数秒〜20秒だろうし、ほぼ定型文なのだから、あらかじめ登録しておけば事足りる。確かに、書き出しに必要なアクションが減ることで「心理的に発信し易くなる」ということはあるかもしれない。だが「メールが多過ぎる」と批判しながら、一方でそれを SNSの利点として挙げるのもおかしな話だ。発信は必ず誰かが受信するのだから。

「メールはやり取りが発散して判らなくなる」
これもあまり本質的ではない。メールも進化しており、スレッド機能なら大抵のクライアントに実装されている。むしろ SNS こそシングルスレッドが基本であり、本当に込み入った議論は、途中で本流以外の流れを見失い易いのではないか。なお、Gmail のスレッド機能は秀逸であり、Outlook 2010 の過去メール表示機能は素晴らしい。

「メールはいちいち開かないといけないことが問題だ」
これもまた全く本質的でない。しいて言うなら、メールクライアントのプレビュー表示の活用をお勧めしたい。

「メールは個人に紐づくので異動されると過去経緯が判らなくなる」
これは確かに eメールの大きな問題で、多くのユーザーが「引き継ぎ」に悩まされている。しかし、それを SNS が解決するか、と言われれば疑問だ。確かに、プロジェクト用のクローズドルームのような場をもうけ、そこでやり取りすれば過去情報を残すことが出来るだろう。しかし、メールよりも短文でかつ散発的なやり取りをすべて遡って読むのだろうか? Facebook や Twitter で過去発言を遡る辛さを思い出して欲しい( これはシステム的な不出来による部分も少なくない)。正直、この問題は SNS であっても解決されるとは考えにくい。結局、どのような情報も誰かが「まとめ」ることで価値が生まれるのだ。

「SNSはどこからでもどんなデバイスでもアクセスできる」
メールも出来る。出来ないのは会社のインフラの問題だ。
 
「相手のプレゼンスが判るので便利だ」
プレゼンスはすばらしく便利な機能だ。利用しないとなかなか想像できないが、一度経験すると、それが無い非効率を思い知らさせる。だが、これはなにもSNSの固有機能ではない。別段、Microsoftの肩を持ちたい訳ではないが、Exchenge Server と Lync を中心とした組み合わせで、メールだけでなくグループウェアなど他システムでプレゼンスを確認することが可能になっている。

「メールはプルだが、SNSはプッシュもできる」
転送はご存知だろうか。

書いていて空しくなってきたので、ここで止めておく。

とはいえ、日常業務において「eメールの処理」に多くの時間を取られているのは事実であり、そこに私を含め多くの人間が苛立を感じていることも間違いない。そこには、絶対になにか問題なり非効率が存在していることを、私も確信している。だが、その非効率とは具体的にどのようなもので、それが何故生じるのか、という点をきちんと精査せずに「eメール」という仕組みを全否定するのはナンセンスだし、またそれ無しでは eメールの問題を SNS が解決し得るかどうか、も論じようが無い筈だ。

ただ、個人的には、そもそも企業内 SNS は eメールと対立するものではなく、むしろコミュニケーション・エコシステムの一部として共存し、相互に補完しあうものなのではないか?との印象を持っている。つまり「NO email」ではなく「Not Only email」だ。この点について、今回のカンファレンスにおいて、オーシャンブリッジ社の高山社長、ブランドダイアログ社の稲葉社長の講演から、かなり重要な気づきを頂いたのだが、それについてはまた別のエントリで書きたいと思う。

追記:いろいろ検索していて辿りついたこのエントリが、私が(NO EMAILについて)言いたいことを実に的確に書いてくれていた:103:サイボウズLiveとチャットワークを起点に考えるメールとツールの時代について

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