スカイマーク航空の「サービスコンセプト」は素晴らしいジョブ・ディスクリプションである

| 2012年5月30日 | 0 Comments

先日、私用で北海道まで出張した際、スカイマーク航空を利用した。航空会社にとくに拘りは無いため(マイルが溜るほど出張もしない)スカイマークを選んだのは単なる偶然(時間帯)と価格が理由だ。

さて、こうした旅客機には、たいてい航空会社の小冊子が置かれているが、このフライトでは、その中に「スカイマーク・サービスコンセプト」と書かれた一枚があった。珍しいと一読してみたが、これにいたく感銘をうけた。

これはある意味、客室乗務員のジョブ・ディスクリプション(職務記述書)だ。通常、ジョブ・ディスクリプションは内部にむけて職員の担当業務と権能を規定するものだが、これはそれを顧客に対して明示している。その点で異例かもしれない。

何故これが必要なのか?それは明らかに、日本サービス業の悪弊である「過剰サービス」を抑制するためだろう。

考えてみれば当然のことで、スカイマークがJALやANAといった、資本力では敵うべくも無い競合と「価格」で戦うのなら、如何に収益に直結しない「余計な」コストを削ることができるかが至上命題だ。

この「サービスコンセプト」が優れている点は、従業員の職務範囲を明らかにしただけでなく「これは違う」と範囲外も明示していることだ。加えて「クレームは(運行の妨げになるのでスタッフでなく)専門窓口が受ける」と組織的バックアップもきちんと用意されている。これなら従業員は働き易く、実効性も担保されるだろう。

一般的に、このような文章を公開するとなると、どうしても「真心」「誠実」「お客様に感謝」等、誰からも文句のでない美辞麗句になりがちだ。

だが曖昧な精神論は、えてして全方位的オーバーサービスに帰結し、その結果、経営は収益を圧迫され、従業員はオーバーワークに消耗する。無償の奉仕精神は日本サービス業の強みではあるが、しかし、それを前提にした会社組織など問題外だ。

もちろん、この過激な(?)宣言に、不快感を覚える顧客も少なくないだろう。何しろ無償サービスに慣れているのだ。それでも、角逐を恐れず明示した点に、私はスカイマーク社の覚悟を感じ、それに感銘を受けたのだ。

さて、字面だけ見れば「サービスを減らします」宣言であるこの「サービスコンセプト」だが、実際のところはどうだろうか?スカイマークの機内サービスは悪化しただろうか?客室乗務員が不快感を覚えるほど華美な服装だったり、対応が横柄だったりしただろうか?

ここは非常に重要なポイントだ。少なくとも、私のフライトではそうしたことは一切なかった。フルサービスをうたう競合他社と遜色ない。乗務員は(むしろ地味な衣服で)テキパキと働いており、その笑顔には生気が感じられた。眠気払いにコーヒーをお願いしたところ「100円頂きます」と酷く申し訳無さそうに謝られ、むしろ100円でいいのかと逆に恐縮した程だ。

このように「兎に角、お客様に全力・全方位・無制限に尽くせ」ではなく、
1.自社のビジネス設計からスタートし、
2.ターゲット顧客を明確に設定し、
3.そこから必要なサービスと過剰なサービスを峻別し、
4.従業員がその通りに働けるよう体制と職務範囲を明示する。
そしてその上で、
5.従業員のモラル(日本人的な奉仕の価値観)を高めることで、一歩上の価値を提供する。

この「メリハリあるサービス」アプローチこそが、これからの(サービス業だけでなく)日本企業が目指すべき方向なのではないだろうか?そう感じさせられたフライトだった。

スカイマークの試みが成功するかどうか、現時点では判らない。私のような人間が多ければ成功するだろうし、反対に日本人の「いたせりつくせりサービス好き」に跳ね返されるかもしれない。だが1000円カット業態が成功したように、既に受け入れられる土壌は十分にあるのではないだろうか。

なお、100円のコーヒーは機内、という場所のせいもあるかもしれないが、妙に旨かったことを付記しておきたい。

と、ここまで書いたところで、私のRSSリーダに面白い記事がかかってきた。同じスカイマークの「サービスコンセプト」に関するエントリだが、この方は正反対に感じられたようだ。

ぐっちーさんの金持ちまっしぐら:スカイマーク・・・・頭は大丈夫か?
http://guccipost.jp/cgi-bin/WebObjects/12336a3d498.woa/wa/read/sq_1378387b15e++8+/#tgl8

まあ、物事の捉え方は人それぞれ、ということだろう。この方は従来の「いたせりつくせり」がお好きなようだから、そちらを利用されればよろしいかと思う。選択肢が多いことは良いことだ。

だが、「頭は大丈夫か」「国土交通省は免許、取り消した方がいい」「「安全で快適な」運行の対極」はさすがに飛躍がすぎる。「こういう会社を「反社会的勢力」と呼ぶ」「少なくとも上場廃止くらいはあたりまえ」に至ってはもう噴飯物だ。

プロフィールを拝見するに、私など足下にも及ばない御経歴の経済金融評論家様である筈なのだが。この文章からは、それがあまりに疑わしく、所謂「なりすましブログ」なのではないかと、真面目に心配している。

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Filed in: 雑記
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